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2020-03-27

こまねっと勉強会「今だからこそ考える 理想の乳房再建」事前質問へのお答え

季節は春!

あちらこちらで桜は咲きそろい 広~い公園で子供たちが走り回っている姿がとても楽しそう!!

皆さま いかがお過ごしでしょうか。新型コロナウイルス感染の影響で、3月・5月のおしゃべり会が中止になりました。

そして、とっても楽しみにしていた

[第30回勉強会 今だからこそ考える 理想の乳房再建]の中止。

多くの参加申し込みを頂き、スタッフ一同ほんとうに心から楽しみにしていました。致し方ないとはいえ……意気消沈。

そんな折に、今回の勉強会の講師を務めて頂く予定でした

都立駒込病院 形成再建外科部長 寺尾保信先生から

「事前質問があったら答えるよ。それを配布したら?」

と、言っていただき…今回につながりました。

どうぞ ゆっくり ゆっくり お読みくださいね。

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乳房再建について 事前質問集

 

①現在インプラントで再建しています。ちょうど入れ替えの時期で、インプラントに発がんリスクがある、との説明を外来で受けました。自家組織での入れ替えになるかと思いますが、そのための勉強会なのでしょうか?

 

今回のインプラント関連リンパ腫の問題では、皆さまにご心配をおかけして申し訳ありません。乳がんという一大事に直面した皆さまに、新たな悪性腫瘍のリスクを負わせることになり、大変心苦しく責任を感じております。正しい情報提供と定期検査で、駒込病院の患者さんにはリンパ腫が発症しないよう、万が一発症しても抜去のみで治癒する段階で発見できるようにしたいと思います。

アラガン社のインプラントを使用した患者さんには、順次リンパ腫のご説明とエコーによる検査を行っています。また、2013年以前にメンター社製のインプラントを使用した患者さんにも、同様にご説明をしております。もし、外来診察が途切れている方がいらしたら、予約を取って受診していただくようお願い申し上げます。

アラガン社のテクスチャードタイプ(表面がざらざら)のインプラントは1/2000から1/3000の確率でリンパ腫が発症するリスクがあります。ただし、この数字は豊胸手術(術後チェックを受けない)や欧米人などの大きなインプラント(表面構造に問題があるため、表面積が大きい方が高リスクと考えられいます)を使用した症例を多く含みます。したがって、正しい手術、日本人に多いサイズのインプラント、術後のチェック、という条件が揃えば、確率はかなり下がると思います。

術後のチェックでは、エコーで漿水腫(インプラント周囲の体液の溜まり)や被膜の変性(厚くなっていないか、腫瘤を形成していないか)を調べますこれらの所見がなければ、リンパ腫の発症は非常に稀です。このリンパ腫は非常にゆっくり進行することが知られ、年 1 回の検査で十分(もし発症したとしても抜去のみで治癒する段階で見つかる)と考えられています。

異常所見がない場合でも、10年以上経過した患者さんには入れ替えを推奨しています。いつまでに交換しなければならないという明確な指標はありませんが、当院では10年から15年での交換をお勧めしています。リンパ腫発症のリスクがないと考えられているスムースタイプ(表面が滑らか)のインプラントへの交換か、自家組織への交換をご案内しています。それぞれ利点と欠点がありますので、主治医にご相談ください。

 

②保険適用以前にMENTORのインプラントで再建しています。間も無く入れ替え目安の10年を迎えますが、どのような選択肢がありますか?

 

メンター社のインプラントは、アラガン社に比べてリンパ腫のリスクは 1/6 以下ですが、アラガン社のインプラントと同様の対応を致します。エコーで上記の所見がなければ10年以上入れておくことも可能ですが、15年程度までには交換をお勧めしています。

保険診療での現時点での選択肢は、リンパ腫発症のリスクがないと考えられていスムースタイプのインプラントへの交換か自家組織への変更となります。それぞれ利点と欠点がありますので、外来診察時にご説明いたします。

 

③インプラント乳房再建によるリンパ腫の発症が認められた場合、腫瘍切除後(および治療後)にスムースタイプのインプラントを用いて再び乳房再建をすることは可能ですか?また、通常の入れ替え手術との違いはありますか?

 

万が一、リンパ腫が発症した場合はインプラントとその周囲の被膜を切除します。通常の入れ替えとほぼ同じ手術になります。リンパ腫が被膜内あるいは漿液腫(インプラント周囲の体液の溜まり)の中に止まっている場合は、リンパ腫の治療は抜去のみで良いとされています。しかしリンパ腫が被膜外におよぶ場合は切除だけでは不十分で、放射線治療や抗癌剤治療が必要になります。

海外の論文では、抜去と同時に新たなインプラントを留置する報告もありますが、その安全性は明確ではありません。当院では、一旦抜去して一定期間様子を見てから、ご希望があれば再度再建することになります(保険診療ではスムースインプラントあるいは自家組織になります)。

 

④現在インプラントで再建しています。将来、脂肪注入の医療技術が進歩したら、インプラントを脂肪注入に切り替えることは可能でしょうか?

 

可能ですが、治療が何回必要か、どの程度の結果(形態、やわらかさなど)が得られるかは明確ではありません。大きな乳房(大きなインプラントを使用している患者さん)では、難しいかもしれません。脂肪注入を追加して小さなインプラントに交換するという選択肢もあると思います。

 

⑤10年前、同時再建でエキスパンダーを入れている時に放射線治療を受けました。インプラントを入れ替える場合、皮膚が伸びにくい等の放射線治療の影響による支障はありますか?

 

放射線治療を受けた患者さんは、エキスパンダーで皮膚が十分拡張せずに不満足再建結果となっていることが多く、大変申し訳ありません。しかし、長期経過することで皮膚の進展性が改善していることもあり、当初より大きなインプラントに交換できた患者さんもいらっしゃいます。その一方で、皮膚の変性により自家組織への交換が望ましい患者さんもいらっしゃいます。外来診察時により良い方法を相談させてください。

 

⑥今後モティバなどの保険適用の可能性はありますか?

 

モティバ社製のインプラント(表面が非常に細かいざらざら構造で、スムースインプラントと同じカテゴリーになります)は発売から10年程度しかたっていませんが、リンパ腫の発症は確認されていません。保険適用の可能性はありますが、モティバは米国のFDA認可を受けていないため、時間がかかると予想されます。実績からするとメンター社(FDA 認可)ですが、リンパ腫の発生の報告もあり(アラガン社の1/6以下のリスクと考えられていますが)、果たしてメンター良いのか難しい問題です。その他にシエントラ社もあり、これらのうちどれかがいずれ保険適用になるのではないかと思われます。

 

⑦昨年のアラガン社の件から、インプラント希望と自家組織再建希望の患者さんの比率は変わりましたか?

 

インプラントが保険適用となった直後の2014年からの数年はインプラントが6割、自家組織が4割ぐらいでしたが、2018年ごろから(リンパ腫の情報の影響だけではないと思うのですが)自家組織が6割ぐらいに増えました。

2019年7月のアラガン社のテクスチャードインプラントのリコール以降はインプラントの一次再建は一旦なくなりましたが、昨年末にアラガン社のスムースインプラント(コシがあるタイプがあらたに追加)が使用できるようになって、最近はインプラントも増えつつあります。現在は自家組織とインプラントの割合は2:1ぐらいでしょうか。

新しいアラガン社のスムースインプラントを使用した印象は、患者さんの乳房の形やサイズによっては、手技を工夫すれば 「結構いいかも」 という感じです。

 

⑧自家組織再建においてはこの数年でupdateしている事はありますか?

 

腹部皮弁(主に穿通枝皮弁)と広背筋皮弁が主流であることに変わりありません。当院でも大腿内側部や臀部からの移植を導入しますが、適応となる乳房形態に制限があり、ほとんどの患者さんは従来の腹部皮弁か広背筋皮弁が良い適用となります。

どの組織を移植するかということが問題にされがちですが、どのように移植して形を作るか、ということがより大切になります。形の作り方に関してはupdateを重ねています

 

⑨広背筋皮弁法で乳房再建した場合は筋肉、脂肪は新しく付きますか?皮膚のつっぱり感は月日が経つと無くなりますか?

 

広背筋皮弁は脂肪分が少ない皮弁なので、体重が増加しても脂肪が増大することあまり期待できません(体重増加で健側のみ大きくなることもあるのでご注意を!)。広背筋皮弁に脂肪注入を追加することで良い結果が得られていますので、主治医ご相談下さい。背部のツッパリは次第に解消しますが、稀に違和感が残ることもあります。

 

⑩背中からの自家組織再建の場合、背中の傷痕は何センチ位になりますか?

 

背部の正中(背骨付近)から外側に向けて斜めに下がる15~20㎝程度の傷跡になります。広背筋皮弁だけではボリュームが足りない患者さん、あるいはインプラントだけでは十分な再建ができない患者さんには、広背筋皮弁とインプラントを併用した再建を行っています(利点がたくさんあります!)。その場合は背部の傷跡を短くすることが可能で、術後のツッパリ感も少なくなります。

 

⑪自家組織再建後に、形の修正のために脂肪を注入するケースはありますか?

 

広背筋皮弁で再建した場合に脂肪注入を追加する場合があります。再建時(広背筋皮弁を移植する時)に、脂肪注入を併用する場合もあります。条件が良ければよい結果が得られます。詳しくは外来でご相談ください。

 

⑫自家組織再建後の検診について教えてください。

 

インプラントの場合のような永久的な定期検診は必要ありません。術後は数週から数か月ごとの診察になります。創部が落ち着いたら6か月から1年ごとになります。当院の乳腺外科に通院している患者さんは、乳腺外科の外来に合わせて10年間来ていただいています。当院の乳腺外科に通院していない方は、5年程度で検診を終える場合もあります(もちろん、ご希望があれば10年間診察いたします)。

 

⑬今後温存手術からの再建手術が選択肢になる可能性はありますか?

 

温存手術の一次再建は当院では行っていません(再建の必要がないと見込まれるので)。再建が必要になるような大きな変形を残す温存手術であれば、全摘+再建をお勧めすることになります。しかし、結果的に変形が残り、それを治したいとのご希望があれば二次再建を行います。主に広背筋皮弁やインプラントによる再建になりますが、変形の程度によっては残存組織(手術と放射線治療によって硬くなった皮膚や乳腺など)を追加切除して再建することになります。

 

⑭手術後再建せず1年経ちますが、いまだに胸が硬いと感じます。このまま再建すると胸が硬いまま膨らむことになるのでは、と恐れています。実際はどうなのでしょうか?

 

術後の硬さや痛みは患者さんごとに異なりますが、症状がつらいようでしたらインプラントの再建は向いていません(皮膚を拡張することで圧迫感が増加します)自家組織移植では、皮膚や脂肪を足すことになるので、硬さや圧迫感の改善が期待できます。まずは外来で術後の状態を診察させてください。

 

⑮再建をした後のことが気になります。

 

インプラント、自家組織とも術後6か月程度はうつぶせを禁止していますが、それ以外の動きの制限はありません。運動(テニス、卓球、ゴルフ、バレーボール、ダンス、水泳など)も可能です。

術後は乳房の感覚がなくなり、側胸部の知覚も鈍くなります。違和感や知覚障害は残りますが次第に慣れてくることが多いようです。皮膚を大きく切除してインプラントで再建すると、圧迫感が強く残る場合があります。最近は皮膚を大きく切り取る乳癌手術は減りましたが、皮膚を大きく切除する必要がある方は自家組織による再建をお勧めします。

乳癌の術前と、術後数年経過した時とでは、乳房再建に対するお気持ちが変わるかもしれません。インプラントで再建した方が、長期経過後に自家組織に交換することもあります。術直後には気にならなかったことが次第に気になるようになることもあります。

乳房再建は手術が終われば終了ではありません。気持ちや生活背景の変化に合わせて、修正やメンテナンスをご提案します。

 

⑯乳頭の着色(入れ墨)が薄くなってしまったのですが、再度 色を入れていただくことはできますか?

 

もちろん可能です。ただし、乳輪部分の瘢痕(皮膚ではなく傷跡)には色素が入りにくく、再度薄くなってしまうことがあります。なるべく1回で良い色にしたいと思うのですが、濃くなり過ぎないようにと思うと、薄くなってしまいがちです。もっと修業します!

 

⑰寺尾先生の、患者さんに真摯に寄り添ってくださる診療スタイルを培った原体験はなんですか?また、すごくタフでいらっしゃるなと思うのですが、秘訣はなんですか?

 

過分なお言葉ありがとうございます。

私を含め当院のスタッフの診療スタイルは、私の前任の坂東正士先生に教えて頂いたものです。カッコよく言うと、自分のキャリアのための仕事ではなく、患者さんのための医療、と言うことになります(自分で言うな!)。患者ファーストというのは、患者さんにしてみれば当たり前のことですよね。このスタイルを私たちは「坂東イズム」と称して、後輩たちに伝えて行こうと思っています。しかし、実際には言葉足らずだったり、満足していただける結果にならなかったりすることもあり、ご迷惑をおかけしていると思います。長いお付き合いの中で、少しでも修正できればと思っています。最近は翌日の手術のために深酒を控えています(以前は・・・)。

 

*・・・・・・・*・・・・・・・*・・・・・・・*・・・・・・・*

 

寺尾先生!ありがとうございます。スタッフ仲間が感嘆しながら言いました。

「患者さん一人一人の顔を思い浮かべて・・・診察室で直にお話を伺ってるみたい💛」

「おっぱいも、患者さんの性格も100人100様、たくさんの患者さんの揺れる気持ちを受け止めてきてくださったと、あらためて。
寺尾先生の愛を感じる・・・感謝感激💓💓」

そして、勉強会に参加しようとしてくださった皆さま。こうして、貴重な真摯な質問を提示してくださった皆さま。

本当にありがとうございます!

 

みんなで育てる 「こまねっと」

次回、おしゃべり会の予定です。

7月13日(月) 14:00~16:00 駒込病院3階 患者サロン

今度こそ みんなに会えますように!!!

元気でね~~~~~💓💓💓 






     

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コメント

勉強会中止残念でした。
でも、寺尾先生から、丁寧な質問の回答を頂いて嬉しいです。ありがとうございました。

投稿: パピヨン | 2020-03-28 20:12

こまねっとスタッフの皆様、お忙しい中、寺尾先生からの回答を丁寧にまとめていただき、ありがとうございました。勉強会が中止になってとても残念でしたが、このように残る形でUPしていただけたことに感謝しております。

寺尾先生の「いぶし銀」の笑顔を思い浮かべながら、ゆっくり読ませていただきました。永久保存版にします。

投稿: たあさん | 2020-03-29 15:06

パピヨンさん  たあさん
ありがとうございます!お声を届けて頂いて、スタッフ一同
とても嬉しいです。
みんなで育てる「こまねっと」、これからも どうぞよろしくお願いいたします!

投稿: こまねっとスタッフ | 2020-03-29 17:57

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